はじめに
商品やサービスを市場に送り出すとき、最初に決めなければならないのが「名前(ネーミング)」です。このネーミングこそがブランディングの第一歩であり、ビジネス上の成否を握るブランドにとって最上級の資産となります。
どれほど優れた商品でも、ネームが憶えられなければ口コミは広がりません。逆に、シンプルで印象的なネーミングは、広告費をかけずとも人々の記憶に残り、自然と拡散していきます。地域特性を活かしたビジネス展開を考えても、地元の方々や観光に訪れた人々の心に響く名前をつけることが、競合との差別化につながることでしょう。
ネーミングについてのあらましを知るだけなら、このような回答で十分かも知れません。でも、もしあなたが『今まさに自社商品の名前に悩んでいる』としたら、ぜひこの先をご一読ください。この記事では、憶えられる名前と忘れられる名前の違いを明確にし、やがて資産となる実践的なネーミングの考え方をお伝えします。明日からすぐに使える具体的な手法を応用して、自社の商品やサービスにご活用ください。
【結論】 ネーミングの秘訣。「意味・音・親しみ」と「CI」。
まず前提として、ネーミングは企業(CI : Corporate Identity)や、事業および商品・サービスの「アイデンティティ(独自の個性や価値観のまとまり)」を定めてから着手するべきものであることをご承知ください。ネーミングは、対象となるブランドのアイデンティティを“可視化するもの”であるため、その源泉となるアイデンティティは、基盤としてグラつかないものとして設定することがとても重要になります。
それを踏まえて考えると、ネーミングで大切なのは記憶への定着です。憶えられる名前には「意味の分かりやすさ」を筆頭に、「音の響きの良さ」、「親しみやすさ」という3つの要素が備わっていることが多いです。
まず、「意味の明確さ」。ブランドが主張する価値感や実現したいことなどがネームから直感的に理解できると、ユーザーである生活者との関係性はグッとと密接に深まります。しかしそれは、説明的すぎてもネームになりません。適度な抽象性と具体性のバランスが求められます。
次に、「音の響き」。人間の脳は、リズム感のある言葉や短い音節の組み合わせを記憶しやすい性質があります。“コカ・コーラ”、“ユニクロ”、“てもみん”など、認知度の高いブランド名は「音」として心地よく、口に出しやすいという特徴を持っています。
そして、「親しみやすさ」。難解な外来語や長すぎる名前は、どれほど洗練されていても日常会話で使われにくく、結果として生活者には馴染みません。ローカルのビジネスでは特に、地域の言葉づかいや生活文化を取り入れるなどの工夫が大きなフックになることもあります。
反対に、すぐに忘れられる名前、なかなか憶えてもらえない名前は、何を意味するか分からない、複雑で発音しにくい、他社と似ている、長い、既視感がある、といった特徴があります。これらを避けるだけでも、ネームは格段に魅力的になります。
【やさしく解説】 「資産」になるネーミングづくりの実践とは
- 定着するネーミングを創るには
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記憶に残る名前を作るための最初に確認することは、「ブランドが伝えるべき価値観や、実現できるベネフィット(利便性)について」です。これに沿わないネーミング案は、これだ!と思っても、大概はダジャレや流行言葉に乗せた言葉遊びの類であることがほとんどです。まして上市などしてしまえば、幸運にも開始直後は話題性を保てたとしても、長く続くブランドにはならないでしょう。
とは言うものの、一般的に機能をそのまま言うのでは冗長すぎてネーミングになりません。機能や期待できる効果を出発点に、適度なクリエイティブジャンプが必要です。一部、小林製薬社などはこうしたことを逆手に取り、「のどぬ〜る(喉の消毒・殺菌に)」「ガスピタン(おなかの張りに)」「ナイシトール(内臓脂肪を落としに)」など、企業ブランディングに取り入れているケースもあります。
次に意識するべきことは、「音」の設計です。日本語には五十音という音の体系があり、それぞれが持つイメージや想起させる事象を理解することが重要になります。
たとえば「カ行」の音は“鋭利さ”を表現し、「サ行」は“清々しさ”や“清潔さ”を連想させます。「マ行」は“ソフトさ”や“優しさ”の印象を与え、「ラ行」は“軽快さ”や“明るさ”、“楽しさ”のイメージを醸し出すと言われています。対象となるブランドで「どのような印象を与えたいのか」を考え、それに合った音を意識することから始めるのも良いかも知れません。
「音節」の数も、重要な要素です。人間が一度に記憶できる音のまとまりは3〜5音節程度といわれています。「ユニクロ」(4音節)、「メタ」(2音節)、「ジェミナイ」(4音節/5音節)など、世界的企業やサービスの名前も短くまとめられています。
さらに、リズムの良さも見逃せません。同じ音を繰り返す「繰り返し型」(例:キットカット/ミャクミャク)、対照的な音を組み合わせる「ギャップ型」(例:ポッキー/パックンチョ)など、パターン化を取り入れると憶えやすさが増します。
沖縄の企業であれば、地域性を活かしたネーミングも効果的です。方言や地名、文化的要素を取り入れることで、他県の企業には真似できない独自性が生まれます。ただし、県外や海外展開を視野に入れる場合は、ネーミングではローカル色を強めすぎないというバランス感覚も必要でしょう。
- “憶えられることのない”ネーミングの特徴
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逆に、忘れられやすい、定着しにくいネーミングにも、ある程度の共通するパターンがあります。
①意味が伝わらない名前:造語は独自性を生みますが、まったく連想できない組み合わせは記憶の引っ掛かりがなく、忘れられやすくなります。「確か、個性的な名前だったはずだが…」では、第2候補のブランドが採用されやすくなり本末転倒です。
②長すぎる名前:「合同会社◯◯◯◯トータルマーケティングベストソリューションズテクノロジー」。このような例は極端ではありますが、なんとなく何をする企業なのかは予想がついても、暗唱できるようになるには相応の時間がかかりますし、記憶には残りづらいでしょう。こちらが望まない略称が独り歩きし、それが残り続けることにもなりかねません。
③発音しにくい名前。外来語を無理に組み合わせたり、読み方が複数考えられる漢字を使用したりすると、人々は口に出すのを躊躇します。誰かに勧めようとしても「アノ会社さん」「ナントカという名前の商品(サービス)」となってしまいます。
④既視感のある名前:どの程度を似ているとするかにもよりますが、直接競合するブランドを意識しすぎると返って似たものを創出してしまうことがあります。消費者の頭の中で混同され、結果としてどれも印象に残りません。こうしたときは、第三者の評価を取り入れたり、複数の競合ブランドと比較してみたりすることで独創性を確保することができます。
実践!ネーミングの発想&チェック
実際にネーミングを考える際の具体的なプロセスをご紹介します。
まず、商品やサービスの核となる価値を3つの言葉で表現してみてください。たとえば沖縄の新しいカフェであれば「やんばる」「海」「地元(の食材)」といった具合です。
次に、それぞれの言葉から連想されるキーワードを可能な限り書き出します。「やんばる」からは「緑、くつろぎ、やすらぎ、安心、ゆったり、のんびり、ゆんたく…」など。「海」からは「水平線、波、青(ミジイル/オールー)、潮風、珊瑚…」など。この段階では、質より量を重視し、思いつく限り列挙していきましょう。
そして、異なるカテゴリーの言葉を組み合わせていきます。たとえば、「青」と「緑」で“おーるー(エメラルドグリーンのうちなーぐち)”や、「波」と「やすらぎ」で「なみやすみ」、「潮」と「のんびり」で「しおのま」など、自然語や造語など、様々なパターンを試してください。
造語を作る場合は、日本語だけでなく外来語も検討します。ただし、発音のしやすさを最優先に。「ザ・ブルーウェーブå カフェテリア」よりは、「はまかふぇ」などのほうが、親しみやすいかもしれません。
候補が出揃ったら、以下の7つの基準で評価してみます。ときにブランドオーナーとなり、ときにお客様になりきって客観的に考察してください。より良い案が見えてくると思います。
- 5秒間で憶えられるか(長さと音の響き)
- 電話で正確に伝えられるか(発音のしやすさ)
- 商品の特徴が何となくでも伝わるか(意味の連想)
- 親しみを感じるか(感情的な印象)
- 競合と区別できるか(独自性)
- ネット検索で埋もれないか(検索性)
- 将来の事業展開に対応できるか(拡張性)
例えば、これらの項目を5段階で評価します。もしも極端に低い評価のパラメータがあれば、それを改善できるネーミングに展開してみるのも良いでしょう。しかし一方で、完璧な名前は存在しません。適時で切り上げることも大切です。個性を失うことなく、バランスの取れたネーミングを目指しましょう。評価では、総合点の高いものから3案程度を最終候補案とします。このとき、優先順位をつけておくと、その後の作業が進めやすくなります。
最終候補が決定したら、ぜひ、「登録商標」の調査・出願・登録を進めてください。特に、同一・類似調査することを忘れないでください。せっかく気に入ったネーミングがつくれても既に商標登録されている場合は、そのまま使用すれば権利侵害となる可能性があります。
同一・類似調査は、専門の弁理士さまに依頼することを強く推奨します。特許情報プラットフォーム(J-PlatPat)で事前に検索することはできますが、同一のネーミングが検索されなかったからといって、それはあなたのネーミングの権利を保証するものではありませんし、誰の権利も侵害していないことの確証にもなりません。調査には一定の費用と期間を必要としますが、訴訟問題などのトラブルを後で収めるための期間と費用に比べればごく軽微だと考えるのが良いでしょう。
権利侵害については企業同士のクレームとなるため、多額の営業補償や損害賠償を求められることがあります。これは意図していない重複であっても免責されることはないと考えるのが一般的です。実際に、類似調査をせず、商標登録についても行わずにネームを使用していた企業が、第三者の権利者から実際に金銭補償を含めた営業補償を求められたという経営者さまにお話を伺ったことがあります。幸い訴訟にはならず和解の交渉で事なきを得たそうですが、少額とは言えない金額をお支払いされたとのことでした。その経営者さまは「ネーミングが“資産”であることを再確認させられた経験だった」と言っておられました。
商標登録というと、とかく「自分のつけたネーミングの権利を保有すること」と考えがちですが、実は、「他者の権利を侵害していないかの確認行為」という意味合いが強いものと、こんにちではなっています。必ず実施することを忘れないようにしてください。
弁理士さまからの調査結果(出願の通りやすさ)を踏まえ、出願するネーミング案を決定します。出願は調査を依頼した弁理士にそのまま依頼することもできます。ネーミングは、弁理士さまが行う類似調査に2〜3週間、出願で5〜6ケ月(早期審査・審理の方法もあります)程度かかるのが一般的です。余裕をみたスケジュールを立ててください。
まとめ
ネーミングは、ブランディングの「1つの方法」であり、お客様との「最初の接点」でもあります。流行る名前は、「意味の明確さ」、「音の響き」、「親しみやすさ」という3要素を兼ね備えて記憶に留まります。逆に、長すぎる、発音しにくい、意味が不明、競合と似ている、既視感があるといった名前は、企業や商品やサービスの品質がどれほど優れていても記憶に残りにくくなります。
沖縄という地域で事業を展開する皆さんには、地域性を活かしつつも普遍的な魅力を持つネーミングを目指していただきたいと思います。今日ご紹介した発想法とチェックポイントを活用し、ぜひ自社の商品やサービスに憶えられる名前づくりを目指してください。
良いネーミングづくりは、広告や宣伝費と同等か、それ以上の価値を大いに生み出す可能性をもっています。ぜひ、ユーザーの口からたくさん発生られる素敵なネーミングづくりに挑戦してみてください。
