「いい感じ」のデザインから抜け出す方法

デザイン判断における「感覚的な曖昧さ」から「論理的な明確さ」への変化

はじめに

新しいWebサイトのデザイン案を見て、少しの沈黙のあと、誰かが「まあ、いい感じですよね」と呟く。そんな光景に覚えはないでしょうか。

実はこの「いい感じ」という言葉の裏には、ブランディングを進める上で見過ごせない課題が潜んでいます。デザインは単なる見た目の装飾ではなく、自社のブランド価値を視覚化し、顧客に届ける重要な戦略ツールです。にもかかわらず、多くの企業が「なんとなく良さそう」という曖昧な基準で決裁を下してしまっています。

この記事では、デザインを「いい感じ」と判断する状態から抜け出し、ブランド基準に基づいた明確な意思決定ができるようになるための考え方をお伝えします。デザインを担当するスタッフとして、または経営者として、自社のブランドを正しく表現できているかを言語化して説明できるようになれば、社内外のコミュニケーションが驚くほどスムーズになります。ぜひ最後までお読みください。

【結論】 必要なのは「説明できる言葉」と「ブランド基準」

デザインを「いい感じ」で終わらせてしまうのは、判断軸を持たないまま感覚だけで決めている状態です。これでは、担当者が変わるたびにブランドの方向性がブレたり、制作会社とのやり取りで意図が伝わらなかったりと、ブランド表現にまとまりがなくなってしまいます。

デザインの判断に必要なのは、「なぜこのデザインが、自社ブランドに合っているのか」を説明できる言葉と、その判断の拠り所となるブランド基準です。色やフォント、レイアウトといった要素には、それぞれ意味があります。その意図を言語化できて初めて、デザインは「戦略的なブランド資産」になります。

多くの経営者は「デザインは専門家に任せるもの」と考えがちですが、判断の最終責任者として、また社員を育成する立場として、デザインの本質を理解しておく必要があります。同時に、デザインを担当する社員も、単に「きれいなもの」を作るのではなく、ブランド戦略を理解した上で制作物に落とし込む思考が求められます。

デザインを語るうえで一皮むける瞬間は、デザインの判断について「説明できるようになった時」です。その段階に到達する人員が多くなるほど、社内での意思決定は格段に速くなり、外部パートナーとの協働も効率的になります。そして何よりも、自社ブランドの一貫性が飛躍的に高まります。

【やさしく解説】 「いい感じ」を超えるデザイン思考

POINT
「いい感じ」は、判断を放棄した危険信号

会議で「いい感じですね」とだけ言ってしまう瞬間、それは判断を放棄した瞬間でもあります。この言葉は便利で、その場の空気を丸く収めてくれますが、ブランディングの観点からは最も避けたい感想の一つです。

なぜなら、「いい感じ」には具体的な根拠も基準も含まれていないからです。何が良いのか、どう良いのか、自社ブランドとの整合性はどうなのか。こうした本来考えるべき要素を素通りして、感覚だけで承認している状態だと言えます。

沖縄県内の中小企業では、社長や経営陣が多忙な中で次々と意思決定を迫られます。その中で「まあ、悪くないし」とデザインを通してしまう気持ちは理解できなくはありません。しかし、このパターンを繰り返すと、ふと振り返ったとき、自社のブランドイメージがツギハギだらけのパッチワークであることに気が付きます。それも、お世辞にも美しいとは言えないシロモノです。

「いい感じ」という評価は、デザインを担当するスタッフの成長機会も奪います。何が評価されたのか分からないため、次回も同じクオリティを再現できません。再現性がないためです。具体的なフィードバックがないまま、毎回手探りのゼロベースで制作を続けることになります。あまりに非効率です。

POINT
デザインの本質は「意図の視覚化」である

デザインとは装飾ではなく、「意図を視覚化するコミュニケーション手段」です。すべての色、書体、レイアウトには意味があり、それらが組み合わさって1つのメッセージを伝えます。

例えば、赤色ひとつとっても、情熱や活力を表現することもあれば、注意喚起や緊急性を伝えることもあります。丸みのある書体は親しみやすさや柔らかさを、角張った書体は力強さや信頼性を演出します。写真の構図やテキストの配置にも、視線の流れや情報の優先順位といった意図が込められています。

デザイナーはこうした要素を戦略的に選択し、組み合わせることで、言葉を使わずにブランドの価値観や姿勢を伝えるのが仕事です。ですから、デザインを評価する側も、これらの要素にどんな意図があるのかを理解し、自社ブランドに合っているかを判断する必要があります。

「収まりがいいから」「余白はもったいないから」「流行っているから」ではなく、「この色使いは私たちの〇〇という価値観を表現できているか」「このレイアウトは顧客に△△というメッセージを伝えられるか」。こうした問いを持つことが、デザイナーとしての成長の第一歩です。

POINT
「ブランド基準」がない判断は、主観の押し付け

デザインの良し悪しを「社長の好み」や「担当者の感性」だけで決めはいないでしょうか。これは誰か個人の主観を代理し満たしているかもしれませんが、到底ブランド戦略とは呼べません。

ブランド基準とは、自社が大切にする価値観、目指す方向性、顧客に与えたい印象などを明文化したものです。このことを意識すれば、デザインの判断軸が明確になります。「社長が青が好きだから」ではなく、「私たちのブランドは信頼と安定を重視しているから、この落ち着いた青が適している」と説明できるようになります。

ブランド基準がないまま主観で判断すると、いくつかの問題が高い頻度で起こります。例えば、担当者が変わるたびに方向性が変わることが挙げられるでしょう。前任者は明るいトーンを好んでいたのに、新任者はシックな雰囲気を求める。これでは顧客から見たブランドイメージが定まることはありません。

外部のデザイナーや制作会社とのやり取りでも混乱が生じやすくなるはずです。「もっとこう、パッとする感じで」「全体的に、もうちょっと爽やかに」といった曖昧な指示では、求めるものが仕上がってくることはないでしょう。結果として修正が繰り返され、時間もコストも浪費するだけになります。

POINT
言語化できて、初めて「共有」が可能になる

デザインについて説明できるようになると、組織全体の動きが変わります。なぜなら、判断基準を言葉にすることで、初めて他者と共有できるようになるからです。

例えば、新商品のパッケージデザインを検討する場面を想像してください。ブランド基準を理解している経営陣なら、「このデザインは私たちの『地域密着』という価値観を、沖縄の風景を連想させる配色で表現できている。ターゲットである40代女性にも響くはずだ」と具体的に語れます。
こうした説明ができれば、その場にいない社員にも判断の理由が伝わります。営業担当者は顧客への説明に活用できますし、新入社員は会社のブランド思想を学べます。デザインを言語化する力は、組織の知識として蓄積されていくのです。

逆に「社長がOKと言ったから」だけでは、その判断の背景は誰にも分かりません。同じような局面で同じ判断を再現することもできませんし、スタッフの成長にもつながりません。

「言語化」というと難しく感じるかもしれませんが、最初は簡単な言葉で構いません。「この写真は温かい雰囲気があるから、私たちの『人を大切にする』姿勢に合っている」。こうした一言から始めることで、徐々にデザインを語る語彙が増やしていきましょう。

POINT
「一皮むける瞬間」は、説明できるようになった時

デザインに関わる人が成長する転換点は、自分の判断を説明できるようになった瞬間です。これは経営者にも、デザイン担当のスタッフにも共通します。

例えば、制作会社から上がってきたデザイン案に対して、「なんとなく違う気がする」ではなく、「私たちのブランドは『革新性』を打ち出しているのに、この保守的なトーンは合わないのではないか」と言えるようになる。これが一皮むけた時の発言です。

デザイン担当のスタッフにとっては、制作物を社内でプレゼンテーションする際に、「このグラデーションは、伝統と革新の融合という当社のコンセプトを視覚的に表現しています」と説明できるようになることが、プロフェッショナルへの第一歩だと言えるでしょう。

説明できるということは、自分の中に判断の軸ができているということです。その軸があれば、外部の意見に流されることなく、自信を持って方向性を示せます。また、他者からのフィードバックも建設的に受け止められるようになります。

沖縄県の中小企業では、一人のスタッフが複数の役割を担うことも多いでしょう。だからこそ、社内にデザインについて語れる力が増えることは、組織全体の資産になります。経営陣が本質を理解し、実務担当者が言語化できれば、小さな組織でも大企業に負けないブランド構築が可能になります。

POINT
具体的な判断軸を持つための3つのステップ

では、実際にどうやって「いい感じ」から抜け出し、説明できる判断軸を持てばよいのでしょうか。ここでは3つのステップをご紹介します。

第一に、自社のブランドの核となる価値観を3つから5つ程度、言葉にしてください。「信頼」「革新」「地域密着」「温かさ」など、抽象的でも構いません。大切なのは、経営陣と社員が共通認識を持つことです。この作業は経営会議や社内ワークショップで行うと効果的です。

第二に、それぞれの価値観をデザイン要素に紐付けます。例えば「信頼」なら「落ち着いた青系の色」「整然としたレイアウト」「可読性の高い書体」といった具合です。「温かさ」なら「暖色系の配色」「手書き風の要素」「余白を活かした柔らかい構成」などが考えられます。(より多くの知見が必要な場合は、インターネットで「価値観と色相」などをキーワード検索することも有用でしょう)

第三に、新しいデザインを評価する際には、必ずこの基準に立ち返る習慣をつけます。「この色は私たちの価値観を表現できているか」「このレイアウトはターゲット顧客に意図したメッセージを伝えられるか」。こうした問いを繰り返すうちに、判断のスピードと精度が上がっていきます。

最初は時間がかかるかもしれませんが、この思考プロセスを経ることを習慣づけることで、組織全体のデザインリテラシーが向上します。

POINT
実務での応用と継続的な改善

判断軸を持つことは、日々の実務にどう活きるのでしょうか。

まず、制作会社への発注時のオリエンテーションが格段に明確になります。「いい感じにお願いします」「おまかせするのでご提案ください」ではなく、「私たちは地域に根ざした温かいブランドイメージを大切にしています。そのため、親しみやすい配色と、人の顔や手元が見える写真を使いたいと考えています」と伝えられます。

社内でのデザインレビューも効率化できます。「なんか違う」という感覚論ではなく、「このデザインは私たちの『革新性』という価値観を表現できているが、『信頼性』の要素が弱いのではないか」と建設的な議論ができます。修正の精度も格段に上がるでしょう。

さらに、採用活動や社員教育にも効果があります。自社のブランド基準を明文化しておくことで、新しく入ってくるデザイナーや営業担当者も、早期に会社の方向性を理解できます。

また、一度決めた基準を固定化しすぎる必要はありません。市場環境や顧客ニーズの変化に応じて、数年に一度程度は、見直しの機会を持つことをお勧めします。大切なのは「今の自社にとって何が適切か」を常に考え続ける姿勢です。

まとめ

「いい感じ」で終わるデザイン判断から抜け出すことは、単なる美的センスの問題ではなく、ブランド戦略の根幹に関わる課題です。

繰り返しになりますが、デザインのすべての要素には意図があり、それを言語化して説明できるようになることで、初めて戦略的なブランド構築が可能になります。経営者として、またはデザイン担当者として、「なぜこのデザインなのか」を語れる力を身につけることが、組織全体の成長につながります。

明日から、デザイン案を見るたびに「なぜこの色なのか」「この配置にどんな意図があるのか」と考えてみてください。最初は答えが出なくても構いません。その問いを持ち続けることで、やがて自然と判断軸が形成されていきます。

沖縄の中小企業には、小回りが利き、全社員がブランドの体現者になれる、という強みと可能性があります。「いい感じ」を超えたデザイン思考を身につけ、自社ブランドを明確に語れる組織を目指していきましょう。あなたの会社のブランドが、顧客の心に確かな印象を残せる日は、そう遠くないと思います。

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