デザインって、どう選べばいいの?

はじめに

新しいパッケージデザインの候補が3案届きました――そんな場面で、あなたはどうやって最終決定をしていますか?

「なんとなくこっちがいい気がする」、「消去法で」、「社長の好きそうな案を推そう」…。よく聞く話ですが、そのような選び方では、あとで苦労しやすくなります。デザインは”好き嫌い”という個人の感覚で選ぶものではありません。デザインは戦略であり、市場やお客様に向かって放つ、メッセージそのものだからです。

この記事では、中小企業経営者や営業責任者の皆さんに向けて、デザインを”正しく”選ぶための判断軸をお伝えします。読み終える頃には、デザイン選定の場面で迷わず、自信を持って決断できるようになります。発注はセンスで、選択はロジックで。次の機会から、早速実践してみてください。

【結論】 デザインは”ブランドとの一致度”で選ぶ

デザインを選ぶ基準は、シンプルです。「どのデザインが、“ブランドの約束”を正しく表現しているか」――これに尽きます。

多くの企業が陥る失敗は、「見た目のかっこよさ」や「個人の好み」でデザインを決めてしまうこと。しかし、デザインの役割はあなたを満足させることではなく、お客様に正しいメッセージを届けることです。

具体的には、次の観点でデザインを評価します。ブランドコンセプトとの整合性、顧客ターゲットへの訴求力、競合との差別化、実際の使用シーンでの機能性――これらすべてをクリアしたデザインこそが、「正解」なのです。

選定の場では、関係者の投票で多数決で決めるのではなく、「なぜこのデザインがブランドに合っているのか」を論理的に言葉で説明できるかどうかがカギになります。感覚ではなく、言語化できるかどうか。それがプロフェッショナルな選択です。

この先の章では、具体的な判断軸とチェックポイントを詳しく解説していきます。明日からのデザイン選定が、確実に変わるはずです。

【やさしく解説】 デザイン選定の6つの判断軸

判断軸
ブランドが交わしている”約束”に沿っているか

デザインを選ぶ第一歩は、「自社ブランドがお客様と交わしている約束は何か」を明確にすることです。

たとえば、あなたのブランドが「とことん地元食材にこだわる」を売りにしているなら、パッケージデザインもその約束を体現しなければなりません。派手な色使いやトレンド重視のデザインは、いくら売り場で目立っても、見栄えが良くても、ブランドの約束から外れています。

逆に、温かみのある色合い、手書き風のフォント、沖縄の風景をさりげなく要素に取り入れた案――こうしたデザインは、「地元」「安心」という約束をビジュアルで語ります。

案を見るとき、まず自問してください。「このデザインは、私たち(ブランド)がお客様に約束していることを正しく伝えているか?」。この問いにすぐに「YES」と答えられないなら、その案は候補から外すべきです。

判断軸
ブランドコンセプトを”可視化”しているか

ブランドコンセプトは言葉です。しかし、デザインはそれを目に見える形に変換する装置です。

たとえば「革新的で挑戦的」というコンセプトなら、デザインにも鋭角的なラインや大胆な配色、余白の使い方に工夫が必要でしょう。一方、「伝統と信頼」がコンセプトなら、落ち着いた色調、クラシックな書体、整然としたレイアウトが求められます。

ここで大切なのは、デザイナーがコンセプトを正しく理解しているかを確認すること。デザイン案のプレゼンでは、必ずデザイナーに「なぜこの色を選んだのか」「このフォントにした理由は何か」を説明してもらいましょう。

言葉で説明できないデザインは、コンセプトを可視化できていません。そして、この時点で説明できないものは、お客様にも伝わりません。

判断軸
店頭やWebに”並べて”みる

デザインは、単体で存在するものではありません。必ず何かの文脈の中に置かれます。

店頭の棚に並んだとき、あなたの商品は目立ちますか? それとも埋もれますか? ECサイトのサムネイル画像として表示されたとき、クリックしたくなりますか?

実際の使用環境でシミュレーションすることが、デザイン選定では欠かせません。候補を印刷して店舗の棚に仮置きしてみる、スマホ画面で縮小表示して視認性を確かめる――こうした地道な検証が、失敗を防ぎます。

沖縄県内の企業なら、観光客向けの土産物店を想定するか、地元のスーパーを想定するかで、求められるデザインはまったく変わります。お客様はどこで手に取るのか、その場面を具体的にイメージし、できるだけ想定することが大切です。

判断軸
スタッフの”投票”で決めない

デザイン選定の場で、よくある光景があります。「じゃあ、社内のみんなに声をかけて投票して決めましょう」――これはいけません。記銘、無記名にかかわらず、これは最悪の決め方です。

なぜなら、多数決はブランド戦略ではなく、個人の好みを反映するからです。20代の女性社員が選ぶデザインと、50代の男性経営者が選ぶデザインは違って当然。しかし、どちらが正しいかは、投票では決まりません。(もちろん、ブランド戦略を全員が深く理解できている場合は、この限りではありません)。

正しい決め方は、判断基準を先に明確にし、その基準に照らして評価することです。「顧客ターゲットは40代女性」「伝えたいメッセージは信頼感」といった基準があれば、感情ではなく論理で選べます。

会議では、「どれが好きか」ではなく「どれがブランド戦略に合っているか」を議論しましょう。投票ではなく、検証と対話で決めるのです。「個人的には?」から始まるジャッジは、除外したほうが賢明です。

判断軸
選択にセンスは不要、“ロジック”が重要

「自分にはデザインセンスがないから…」と尻込みする経営者は少なくありません。しかし、安心してください。デザイン選定にセンスは不要です。

必要なのは、ロジックです。判断の軸があれば、誰でも正しく選べます。
たとえば次のような質問に答えられれば、それで十分です。「このデザインは、顧客ターゲットの価値観に合っているか?」「競合と比べて、どこが差別化されているか?」「3年後も使い続けられるか?」

こうした問いに対して、YesかNoで答え、その理由を言葉にできるなら、あなたはすでに正しい選択をしています。センスとは感覚ではなく、言語化できる判断力のことなのです。

判断軸
選択した理由を“語れ”ますか?

最後の、そして最も重要な判断基準は、「なぜそのデザインを選んだのか」を説明できるかです。

社内のスタッフへ、取引先との商談で、あるいは将来の採用面接で。――あなたがそのデザインを選んだ理由を、自信を持って語れるなら、それは正しい選択です。

「社長が気に入ったから」では、説明になりません。「このデザインは、私たちのブランドが大切にしている『地域との共生』を視覚的に表現しています。そして、ターゲットである県外都市部の30~40代の働く女性に共感してもらえるように意識しました。」――こんな風に語っていくことが、戦略的なブランディングです。

説明できない選択は、戦略ではなくギャンブルです。伸るか反るかで、ブランドの価値は高まりません。

デザイン選定のチェックリスト

最後に、すぐに使えるチェックリストをご紹介します。ぜひご活用ください。

  • [  ] ブランドコンセプトとの一致:ブランドコンセプトを表現できているか?
  • [  ] 約束の体現: お客様と交わしている”約束”は伝わるか?
  • [  ] ターゲットへの訴求: 想定している顧客ターゲットに響く要素が含まれているか?
  • [  ] 競合との差別化: 同じ棚に並ぶ競合商品と比べて、明確に区別できるか?
  • [  ] 実用性の検証: 店頭やWeb、実際の使用環境で機能するか?
  • [  ] 視認性: 遠くから見ても、小さいサイズでも、認識できるか?
  • [  ] 拡張性: 今後のシリーズ展開や派生商品にも対応できそうか?
  • [  ] 耐久性: 3年後、5年後も使い続けられそうか?
  • [  ] 説明可能性: なぜこのデザインを選んだのか、論理的に説明できるか?
  • [  ] 感覚との分離: 個人の好みではなく、戦略的判断で選べているか?

「YES」と答えられる案が多い場合は、その“程度”の大きい案がよい選択につながります。

まとめ

デザインは、誰かの好みや、スタッフやモニターによる多数決で選ぶものではありません。デザインは、ブランド戦略を目に見える形に具現化する手段であり、お客様との約束を視覚的に伝える手段です。

今回お伝えした判断軸――ブランドとの一致、コンセプトの可視化、実環境での検証、投票に頼らない決定、ロジックによる選択、そして説明責任――これらを意識するだけで、デザイン選定の精度は劇的に向上するのは間違いないと思います。

次にデザイン案を前にしたとき、「これが好き/嫌い」ではなく、「これが正しい/合致している」と言えるようになってください。センスではなく、論理で選ぶ。その積み重ねが、強いブランドを育てます。

沖縄の中小企業だからこそ、限られた予算の中で最大の効果を生む選択が求められます。今日の記事が、あなたの次の一歩を支える羅針盤となれば幸いです。さあ、自信とポリシーをもって選択していきましょう。

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