はじめに
ブランドカラーとは、企業や商品・サービスを象徴する色のことを言います。ロゴや名刺、ウェブサイト、パンフレットなど、あらゆる接点で一貫して使われることで、顧客の記憶に残り、信頼感を積み重ねていく役割を担います。
「うちは小さな会社だから、そこまで気にしなくても……」と思われるかもしれません。しかし、色には人の感情や印象を左右する力があり、適切に選ぶことで競合との差別化や顧客との結びつきを強めることができます。逆に、場当たり的に色を使い分けていると、ちぐはぐな印象を与え、せっかくの努力が伝わりにくくなる恐れもあります。
この記事では、ブランディング初心者の方でも実践できる「ブランドカラーの決め方」を、理念との結びつけ方から実際の運用まで、段階を追って解説します。
【結論】 理念を起点に、戦略的に選ぶことが大切
ブランドカラーを決める際に最も大切なのは、「自社が何を大切にしているか」をハッキリさせることです。その価値観を、色で表現するのです。見た目の好みや流行だけで選ぶと企業の本質と合わないためイメージの固定ができなくなり、長く使い続けることが難しくなってしまいます。
まず、自社の理念やビジョン、顧客に提供したい体験を言葉で整理しましょう。その上で、色が持つ一般的なイメージ(赤なら情熱、青なら誠実など)を参考にしながら、自社らしさを表現できる色を導き出します。このとき、業種や顧客層、競合他社の色使いも視野に入れることで、より戦略的な選択が可能になります。
また、ブランドカラーは「メインカラー1色」で完結するものではありません。サブカラーやアクセントカラーを組み合わせることで、表現の幅が広がり、さまざまな媒体で使いやすくなります。そして決めた色は、名刺・ウェブサイト・看板・資料など、あらゆる接点で一貫して使い続けることが重要です。一貫性があってこそ、顧客の記憶に残り、信頼が育まれていくのです。
すでに何となく使っている色がある場合でも、改めて「なぜこの色なのか」を問い直し、必要であれば見直すことで、ブランドの軸が明確になります。整合性がないと考えたなら、色を設定し直すことも有用です。色選びは、企業の価値観を可視化し顧客との関係を深めるための、極めて実務的な取り組みなのです。
【やさしく解説】 ブランドカラーを決める5つのステップ
色には、言葉以上に強い影響力があります。人は視覚情報を瞬時に処理するため、企業やサービスに出会ったとき、まず色が印象として残ります。たとえば、ある企業のロゴを見たときに「あの会社だ」とすぐに分かるのは、色が記憶のトリガーになっているからだとも言えるでしょう。
ブランドカラーの役割は大きく分けて三つあります。一つ目は「認知」です。一貫した色使いを続けることで、顧客は「この色を見たらあの会社」という結びつきを自然と覚えていきます。二つ目は「感情への働きかけ」です。色にはそれぞれ心理的な作用があり、見る人に安心感や活力、信頼感などを与えます。三つ目は「差別化」です。競合が使っていない色を選ぶことで、市場での存在感を高めることができます。
中小企業の場合、大企業のように広告予算を潤沢に使えるわけではありません。だからこそ、少ない接点でも印象を残せる「色の力」を味方につけることが効果的です。名刺を渡す瞬間、ウェブサイトを開いた瞬間、看板を見かけた瞬間──すべてが、ブランドを記憶してもらうチャンスになります。
色選びを軽視してしまうと、せっかくの接点が「何となく」で終わり、記憶に残りません。逆に、戦略的に色を選び、一貫して使い続ければ、小さな会社でも確実に顧客の心に刻まれていきます。ブランドカラーは、企業の顔を作る第一歩です。
ブランドカラーを決める際、最初にすべきは「色を選ぶこと」ではありません。色の選択は最後に行う決定です。まず、自社が何を大切にしているのか、どんな価値を顧客に届けたいのかを整理することから始めます。そして、言葉にしてみましょう。この土台がなければ、どんなに美しい色を選んでも、どんなに目を惹く色を見つけても、企業の本質とズレが生じてしまい、ブランドの価値が上がりません。
たとえば、「地域のお客様に寄り添い、誠実に仕事をする」という理念を掲げている企業なら、“温かみ”があり“信頼感”を感じさせる色が適していると言えるでしょう。一方、「革新的な技術で業界に新しい風を吹き込む」という価値観を持つ企業なら、“先進性”や“活力”を感じさせる色が候補になってくるでしょう。
理念を言語化する過程で、「自社らしさ」が明確になってきます。その、見えてきた「らしさ」を色に翻訳するのが、ブランドカラー選びの本質です。色ありきで考えてしまうと、流行や見た目の好みに流されがちですが、「理念ありき」で考えれば、取捨選択に軸ができます。
理念と色が結びついていれば、時間が経っても「なぜこの色なのか」を説明できます。「この色であるべき」と思えてくるはずです。こうしたことが、ブランドに一貫性をもたらし、社内外に信頼を生む源になっていきます。
色には、多くの人が共通して抱くイメージがあることが知られています。これを「色彩心理」と呼び、ブランドカラーを選ぶ際の有力な手がかりになります。ただし、色の印象は絶対的なものではなく、文化や個人の経験によって変わることもあるため、あくまで「一般的な傾向」として捉えることが大切です。
代表的な色のイメージを挙げると、「赤」は情熱・活力・エネルギーを連想させ、飲食業や小売業でよく使われます。「青」は誠実・信頼・冷静さを感じさせ、金融機関や医療機関、IT企業に好まれます。「緑」は自然・安心・成長を表現し、環境関連や健康産業、教育分野で採用されることが多いです。「黄」は明るさ・親しみやすさ・注意喚起の効果があり、「オレンジ」は温かみ・社交性・親近感を演出します。「黒」や「灰色」は高級感・洗練・プロフェッショナルを示し、「紫」は独創性・高貴性・神秘性を醸し出すと言われています。
とは言いつつも、色の選び方は業種だけで決まるわけではありません。同じ飲食業でも、高級レストランと地域密着型の食事処では、目指す印象が異なります。前者なら黒やゴールドで洗練された雰囲気を、後者なら暖色系で親しみやすさを表現したり、濃い青で老舗・本格感を表現したりするのが適しているかもしれません。
また、ターゲットとする顧客層も考慮すべき要素です。若年層向けのサービスなら鮮やかで活気のある色が響きやすく、年配層や法人向けなら落ち着いた色が信頼感を生みます。業種の「常識」に縛られすぎず、自社の理念と顧客像に照らして選ぶことが、独自性のあるブランドカラーにつながります。
ブランドカラーを選ぶ際、忘れてはならないのが競合他社の色使いです。同じ業種・地域で似たような色を使っていると、顧客の記憶に残りにくく、埋もれてしまう危険があります。差別化を意識することで、市場での存在感を高めることができます。
まず、自社の競合や業界の採用傾向を調べてみることから始めます。ウェブサイトや名刺、看板などを確認すれば、おおよその傾向が見えてくるでしょう。もし多くの競合が青を使っているなら、あえて暖色系を選ぶことで目立つことができます。逆に、業界全体が派手な色ばかりなら、落ち着いた色で差別化する手もあります。
しかし注意しなければいけないのは、差別化だけを優先して、自社の理念とかけ離れた色を選んでしまう、ということです。これでは本末転倒です。競合との違いを意識しつつ、自社らしさを表現できる色を見つけることが最大級に重要です。理念と色彩とが調和したとき、「他にはない自分たちだけの色」が生まれます。
ブランドカラーは1色だけで完結させる必要はありません。メインカラーに加えて、サブカラーやアクセントカラーを設定することで、表現の幅が広がります。メインカラーは企業の核となる色、サブカラーはメインを補い調和させる色、アクセントカラーは強調や変化をつける色です。この3層構造を持つことで、さまざまな媒体やシーンに柔軟に対応できます。
配色を決める際は、色同士の相性も考慮しましょう。色相環を参考にしながら、調和する組み合わせを探すとよいでしょう。専門的な知識がなくても、無料の配色ツールやカラーパレット作成サイトを利用すれば、バランスの取れた配色を簡単に試すことができます。
競合との差別化と配色の工夫を組み合わせることで、ブランドカラーは単なる「色」から、戦略的なコミュニケーション・ツールへと進化します。
ブランドカラーは、決めただけでは意味がありません。さまざまな接点で、同一条件のもとに使い続けることにより、初めて効果を発揮します。名刺、ウェブサイト、パンフレット、看板、包装紙、社用車、ユニフォームなど。お客様(ユーザー)と接するすべての場面で、一貫した色使いを徹底することが重要です。
まず、メインカラー・サブカラー・アクセントカラーの使用ルールを明文化しておきましょう。たとえば、「ロゴにはメインカラーを必ず使う」「背景にはサブカラーを使う」「ボタンや見出しにはアクセントカラーを使う」といった具体的な基準を決めます。このルールを社内で共有することで、誰が制作物を作っても統一感が保たれます。
ウェブサイトは特に重要な接点です。トップページだけでなく、下層ページやブログ記事まで色使いを統一することが、一般的には望ましいと言われています。また、名刺や封筒、提案資料なども、ブランドカラーを取り入れることで、顧客との接触回数を重ねるたびに印象が強化されます。
既存の色を見直す場合は、意図的に、段階を追って移行する方法もあります。たとえば、新しいカラーを少しずつ追加し、旧カラーと併用しながら徐々に切り替えていくことで顧客の混乱を防げたり、既に存在する在庫を使い切ったりできます。ただし、一斉に切り替えた方が刷新の効果は大きいですし、長い移行期間は一貫性を失わせるため、ごく短期間で計画的に進めることが大切です。
また、印刷物とデジタル媒体では、色の見え方が異なることにも注意が必要です。印刷にはCMYK、画面表示にはRGBという異なる色の表現方式があるため、同じ色でも微妙に違って見えることがあります。色の数値を正確に管理し、媒体ごとに調整することが必要です。
まとめ
ブランドカラーは、企業の価値観を視覚的に表現し、顧客との結びつきを強める重要な要素です。色選びは単なる好みの問題ではなく、理念を起点にした戦略的な判断が求められます。
自社が何を大切にしているかを明確にし、その価値観を色で表現すること。色が持つ一般的なイメージや業種との相性を理解し、競合との差別化を図ること。そして決めた色を、あらゆる接点で一貫して使い続けること。この一連のプロセスを丁寧に進めることで、ブランドカラーは企業の強力な味方になります。
製造業、小売業、サービス業など、業態を問うことなく「色による視覚的なブランディング」は企業の成長を後押しする可能性を秘めています。まずは自社の理念を見つめ直し、それにふさわしい色を選ぶことから始めてみてください。その一歩が、顧客に選ばれ続ける企業への道を開くはずです。
